「ラシーヌらしさ」があるとしたら、それはどういうものでしょうか? むろん、ラシーヌとの接し方と関係しだいでもって、「らしさ」(があるとしてのことですが)への見方が違うはずです。具体的にいえば、海外と国内におけるお取引の有無や取引関係の密度、また、個別具体的には、ラシーヌの誰を通じて、また、どのようなお付合いの仕方をしていただいているか(あるいは、いないのか)によって、ラシーヌに対する理解と評価、あるいはイメージが異なることになります。
が、ここでは外から見たラシーヌ像はさておくとして、当事者としてのラシーヌが、なにをどう考えて行動しているか、という視点から、ラシーヌのアイデンティティ、つまりラシーヌがラシーヌである所以(ゆえん)を、あらためて探ってみることにしましょう。大げさにいえば、ラシーヌの企業理念と経営哲学の問題になりますが、これについてはすでに何回も触れてきましたので、再説するのは省きます。
逆に、論理実験のようにして、「ラシーヌらしくないものは、なにか?」と考えると、分かりやすいかもしれません。いわば、影から実体を類推するようなやりかたです。そこで、私たちが「どのようなインポーターになりたくないか」を明らかにするために、「ラシーヌはなにをしないか」という例をいくつか挙げ、実感していただこうというわけです。ただし、同業他社などの名前を挙げるのは憚るため、やや抽象的に述べることにします。せいぜいのところ、インポーターのタイプ論の参考にしか、ならないかもしれませんが。
《ラシーヌの“DON’T”(=しないこと)》
1、常に厳しい味覚審査をパスしない商品は扱わない
商品開発を担当するのは、ご存知のとおり合田と塚原です。産地(あるいは産地と同等の条件の地)でもって、二人による妥協のない味覚チェックと同意をへないワインは、むろん取り扱いません。また、扱い始めた後でも、テイストと品質の低下がうかがえた場合は、取扱いを中止します。たとえ開発に時間をかけ、手間をかけてご紹介し、すでに市場で認知・受容されているワインであっても、生産者側の原因によってワインの味わいと品質、個性が好ましくない方向に転じた場合は、過去のマーケティング投資(ブランド/市場育成努力)が無駄になっても、扱いを中止したことが少なからずありました。扱い中止の背景には、必ず明確な理由があるとお考えください。
2、並行輸入品を扱わない
輸入されたワインの味わいとコンディションは、産地での味わいと同等であるのが理想ですが、その実現に近づくのは不可能ではありません。そのためにはまず、生産者と信頼関係を築き上げて正規輸入代理店となり、生産者が蔵出ししたワインしか扱わない方針を貫くことです。逆にいえば、グレイ・マーケットや並行市場に出回るワインの身許は不確実であって、どのような経路をたどり、いかなる輸送・保管条件のもとにあったかが保証されません。それだけでなく私たちは、産地国の流通市場からワインを調達することはありません。ワインは移動するたびに品質が影響を受けるのですが、残念ながらこの国では、酷い損傷を被った並行品にしばしば出会います。それが、ラシーヌの扱っている商品の並行ものであるばあいならなおさらのこと、オリジナルとの落差に愕然とし、生産者の名誉を汚すような行為にたいして、憤然とせざるをえません。
3、返品された商品は、販売に供さない
いったんお客様の元に届けられてから、誤出荷であることが判明し、ラシーヌの倉庫に返品されるという事故が、まま起きます。このような往復運動をさせられたワインは、外見上いかに健全であろうと、程度の差こそあれダメッジや品質劣化を免れません。こういうワインを、ラシーヌは他のお客様に転売するわけにはいきません。可哀想に返品の憂き目に会ったワインは、販売店やレストランで消費者にお目どおりする機会を奪われ、造り手には申し訳ありませんが、料理用に格落ちされる運命にあるのです。
4、デパートの催事に参加しません
デパートでの「○○○○展」と銘打った華々しい催事とか、別種の大掛かりなイヴェントでは、会場の温度や照明のため、早々に品質劣化が生じやすいものです。そのため、購入されたお客様や試飲された方の期待を裏切るおそれがあります。わけてもデパートの催事では、売れ残った商品の返品が通例化しているため、返品された商品は上記Bと同じ理由によって、当社としては再販売することが不可能です。このような事情のため、消費者と接触する大切な機会を失うのは残念ですが、この種の催事には参加しないことにしています。
5、虚偽の情報を流しません
商品の「価値」を高め、「イメージ」を上げるため、広告やクチコミによって、生産者や商品、あるいはヴィンテッジなどに関して、偽りまたは不正確な情報を流布させることが、ありがちなものです。ワインの生産国や他の消費国では通用しないような、えらく噴飯モノの偽情報(ガセネタ)が、どうやら意図的に日本国内に流されていたことが過去にあり、いまだに訂正もされていないようです。また、なぜか日本のジャーナリズムだけが、不当に高く、あるいは歪んだ評価を下している生産者や商品があるようです。私たちは自社の扱い商品について自画自賛を慎み、不正確な情報やミスリーディングな情報を流すことのないよう自戒しています。いまや、誰でもインターネットでもって容易に、信頼できる筋の(探しだせる人には)きちんとした評価が得られるのですから。
……と、「しない・しない尽くし」は続きますが、この辺で切り上げましょう。私たちラシーヌが、ワインの品質にかける情熱について語りだしたら、キリがありません。
なお参考までに、手短にワインの味わい、品質とコンディションの関係を図式化すれば
ワインの味わい = 品質 × コンディション
というのが、私たちの考え方です。ちなみに、「品質」とは、テロワールの可能性を実現するために、生産者の哲学・知恵・技術と努力が、ワインに結晶したものです。また、「コンディション」とは、オリジナルのワインが体現している(現在の)状態と(将来の熟成などの)可能性からの乖離度(距離)である、とお考えください。もし、この図式が妥当するとしたら、あるワインに固有の品質とコンディションの、どちらか一方にでも問題があるばあいには、必ずやそれがワインの味わいに反映されるということになります。逆にいえば、美味しいと思われないワインには、その理由があるはずなのです。
舌足らずではありますが、以上のような説明でもって、ラシーヌらしさの一端をご理解いただければ幸いです。
このような根本精神あるいは原点に立ち返って、2010年に私たちはさらに前進することをお約束いたします。イタリアでは、今年のラシーヌの花形となることを約されているヴァルポリチェッラが、すでに出立の用意を整えています。詳しくは、今後のラシーヌ便りなどでお伝えしますので、ご期待ください。
(株)ラシーヌ 代表取締役
合田泰子/ 塚原正章
|